雪の長距離バスターミナル1
いつもそのバスターミナルを見るのは冬で、しかも積雪が15cmほどあった。少しだが更に雪が舞っていて、音を消している。ターミナルには背の高い街灯があってオレンジ色の光を落としていた。いわゆる大都市の長距離バスの乗降場ではなく、郊外か地方都市のそれでターミナルの大きさの割に利用客が多くなかった。私の運転する中型寝台急行バスはこのターミナルをその路線の一部に持っているが、そこで他の会社のバスに遭遇したことは5年間でただの一度も無かった。もっともこの寝台急行バスは冬場のチャーター便なので、3シーズンは他社のバスが入っているのかもしれないと思った。
このチャーター便はツーリストの連絡で運行しているのではなく、地方都市+バス会社連合+鉄道会社が冬場の路線縮小のために合同で運行している路線だった。運転手はアルバイトで、私は今のところ週1回だけ金曜の夜から日曜の夕方までを担当していた。
今日はターミナルに2人くらい人影が見える。ひとりは赤い大型の転がしスーツケースをもってエナメルの赤いコートを着てBTに立ち、もうひとりは、マフ付きの赤いキャップを被り65Lくらいのアタックザックとスキー板を持っていた。この中型長距離バス個室寝台タイプは4ベッド1サロンしかないこじんまりした長距離バスなのだが、サロンルームでは食事も取れお茶のサービスもあった。少しだがコミックの本棚と小説の本棚とモバイルPCも置かれている。これは各キャビンに持ち込んでもOKだった。またトイレは勿論装備で、小さいがシャワールームも共同使用という形で提供されている。1日3便が運行されるがそれぞれ時間の早いものから男性ビジネス専用、混合、女性専用と決まっている。本日の最終便のこのバスも、外見からは判断できない訳ありの女性2人がサロンを挟んで前後の個室に収まった。
訳ありもいろいろだが、日付が変わる少し前の夜行便には既に人でなくなってしまったヒトも時々乗っているようだ。それが証拠に、このBTの次のBTは高速自動車道のSAで朝7:30着なのだが、そこについた時に降車予定だった女性が降りて来なかった。不審に思って個室を訪ねるものの本人も荷物も一切無かったというのが数回あった。運転手が気付かぬうちにトワイライトゾーンを走るバスに乗り換えているようなのだ。今日の客もエナメルのコートの方は危なく思えた。ただ料金は予約時に払っているので何かあっても取りはぐれることも無く、また実体はまったく別の場所にあるので、取調べ等で遅れが生ずるようなことも無かった。中には常連も何人かいて、キャビンから運転室を覗きに来る人もいた。
発射時刻まで少し余裕があるので、珈琲・紅茶のサービスと本日のスペシャルの案内をした。スペシャルは運転士によって出すものが違う。私はミートソーススパゲティーとミネストローネスープを用意していた。軽食ではあるが夜食であるので、ダイエットを気にする人でもあったまってもらえるものを企画していた。先週はキツネうどん、先々週はグラタンだったような気がする。若いときにユースホステルでヘルパーをした経験があるが、その経験は充分役に立っている。こんな形だがユースをやりたかった夢が実ったような気がするバイトだった。だからスペシャルには手をかけていた。今夜のツーリストは乗車直後にエナメルコートの人が珈琲を部屋のポット1本分取りに来て直ぐにキャビンに引っ込んだ。忙しいのか?必要最低限のことしか話さなかった。もうひとりは常連、土曜の夕方に長時間停車する小さなスキー場で少しだけスキーをしに行くようだった。こちらは乗車して10分ぐらいしてサロンに来てスペシャルを食べていった。眠る前に少しだけ話がしたいと、そのあと運転室に寄っていった。深夜の雪道は神経も使うがとても幻想的で、見ているだけでもロマンチックな気分になる。FMか深夜放送かをつけて人の声を聴きながら走らないとそのまま冥府へ引きずり込まれそうになることがあった。
バスが発車するときは、発車アナウンスは無い。既に休まれるツーリストも居るために発車時刻になれば、静かに動き出すことになっていた。本日もその方式は何のアクシデントも無く守られた。発車30分後に常連の方が運転室に来た。運転室の大きな窓から夜の雪の街道を眺めるのが大好きなんだと以前聞いたことがあった。運転室にも助手席用の椅子とドリンクサーバーが有る。彼女は紅茶をいっぱい所望して、助手席に座った。
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*トワイライトゾーン:小室孝太郎という漫画家が草創期(1969)の週間少年ジャンプに連載したSFファンタジー漫画。夕暮れの時間帯に冥府と現世が融合するという設定で、事件がおきていた。ここでは、雪雲と積雪に覆われた静寂な時間帯と空間に冥界との融合点を見ている。
このチャーター便はツーリストの連絡で運行しているのではなく、地方都市+バス会社連合+鉄道会社が冬場の路線縮小のために合同で運行している路線だった。運転手はアルバイトで、私は今のところ週1回だけ金曜の夜から日曜の夕方までを担当していた。
今日はターミナルに2人くらい人影が見える。ひとりは赤い大型の転がしスーツケースをもってエナメルの赤いコートを着てBTに立ち、もうひとりは、マフ付きの赤いキャップを被り65Lくらいのアタックザックとスキー板を持っていた。この中型長距離バス個室寝台タイプは4ベッド1サロンしかないこじんまりした長距離バスなのだが、サロンルームでは食事も取れお茶のサービスもあった。少しだがコミックの本棚と小説の本棚とモバイルPCも置かれている。これは各キャビンに持ち込んでもOKだった。またトイレは勿論装備で、小さいがシャワールームも共同使用という形で提供されている。1日3便が運行されるがそれぞれ時間の早いものから男性ビジネス専用、混合、女性専用と決まっている。本日の最終便のこのバスも、外見からは判断できない訳ありの女性2人がサロンを挟んで前後の個室に収まった。
訳ありもいろいろだが、日付が変わる少し前の夜行便には既に人でなくなってしまったヒトも時々乗っているようだ。それが証拠に、このBTの次のBTは高速自動車道のSAで朝7:30着なのだが、そこについた時に降車予定だった女性が降りて来なかった。不審に思って個室を訪ねるものの本人も荷物も一切無かったというのが数回あった。運転手が気付かぬうちにトワイライトゾーンを走るバスに乗り換えているようなのだ。今日の客もエナメルのコートの方は危なく思えた。ただ料金は予約時に払っているので何かあっても取りはぐれることも無く、また実体はまったく別の場所にあるので、取調べ等で遅れが生ずるようなことも無かった。中には常連も何人かいて、キャビンから運転室を覗きに来る人もいた。
発射時刻まで少し余裕があるので、珈琲・紅茶のサービスと本日のスペシャルの案内をした。スペシャルは運転士によって出すものが違う。私はミートソーススパゲティーとミネストローネスープを用意していた。軽食ではあるが夜食であるので、ダイエットを気にする人でもあったまってもらえるものを企画していた。先週はキツネうどん、先々週はグラタンだったような気がする。若いときにユースホステルでヘルパーをした経験があるが、その経験は充分役に立っている。こんな形だがユースをやりたかった夢が実ったような気がするバイトだった。だからスペシャルには手をかけていた。今夜のツーリストは乗車直後にエナメルコートの人が珈琲を部屋のポット1本分取りに来て直ぐにキャビンに引っ込んだ。忙しいのか?必要最低限のことしか話さなかった。もうひとりは常連、土曜の夕方に長時間停車する小さなスキー場で少しだけスキーをしに行くようだった。こちらは乗車して10分ぐらいしてサロンに来てスペシャルを食べていった。眠る前に少しだけ話がしたいと、そのあと運転室に寄っていった。深夜の雪道は神経も使うがとても幻想的で、見ているだけでもロマンチックな気分になる。FMか深夜放送かをつけて人の声を聴きながら走らないとそのまま冥府へ引きずり込まれそうになることがあった。
バスが発車するときは、発車アナウンスは無い。既に休まれるツーリストも居るために発車時刻になれば、静かに動き出すことになっていた。本日もその方式は何のアクシデントも無く守られた。発車30分後に常連の方が運転室に来た。運転室の大きな窓から夜の雪の街道を眺めるのが大好きなんだと以前聞いたことがあった。運転室にも助手席用の椅子とドリンクサーバーが有る。彼女は紅茶をいっぱい所望して、助手席に座った。
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*トワイライトゾーン:小室孝太郎という漫画家が草創期(1969)の週間少年ジャンプに連載したSFファンタジー漫画。夕暮れの時間帯に冥府と現世が融合するという設定で、事件がおきていた。ここでは、雪雲と積雪に覆われた静寂な時間帯と空間に冥界との融合点を見ている。
# by Fuku-Sanzo | 2008-11-11 10:59 | 心象紀行の区分







